思いを馳せる、未来に。
内定式に向かう朝。前髪をあげて、ネクタイを締める。
セットが上手くきまらない、かたまりになってしまったワックスと共に、緊張をほぐす。
ばっちり、びっしり。
会場の新宿までは電車で片道ちょうど一時間。
最寄駅に向かう。
今日はいつにも増して良い天気だ、コロナで長引いた夏休みのせいで昼夜逆転し、もぐらのような生活スタイルを送っていた僕にとって、久々に浴びた朝日だった。
道中、夢を描いていたあの頃を思い出す。あの頃は何にでもなれる気がした。何にでもなれた。
消防士?警察官?カフェのマスターなんてのも良いかもしれない、こだわりのある美味しいコーヒーを出すマスター。あぁ楽しみだ。どれにしよう。
ホームのアナウンス音で現実に引き戻される。
空いた扉の向こうには、これまたスーツでびっしりきめた友達が乗っていた。
人生ってわかんないものだ、まさか友達と同じ会社に入社するなんて思ってなかった。
中に入ると、まず一声。
「キングオブコント観た?」
彼とはとても気が合う。まさかお笑いについて語り合える友達ができるなんて。
熱で膨張した空気を吸って、内定式の緊張なんて忘れる。
未来が分岐する。
このまま新宿へ向かう線路に抗わず、緊張を思い出し、二人、喋るのをやめてしまったら、大人になる。そのまま、真っ直ぐ、階段を登っていく。
未来が、分岐する。
「もし俺がこのまま、内定式バックれてさ、、芸人になろうって言ったら、ついて来る?」
「いつかみたいに、かっこいい名前の駅で降りてさ、ジョナサン行って、ネタ書いてみない?」
そんな未来、こない未来。
大人になったら馬鹿にする選択、真っ先に突っぱねる選択。
もし、こんな選択をして青春を駆け抜けた僕らに、夢で逢えたら、大人になった僕はなんて声を掛けるかな?
明日、僕がこんなことを言ったら君はなんて言うかな?
空気階段さん優勝おめでとうございます!最高に笑いました!